研究内容 Research Content

松永 民秀 教授 Tamihide Matsunaga

薬物代謝研究が私の基本である。現在は、ヒトiPS細胞を肝細胞、腸管細胞、血管内皮細胞等へ分化誘導するより優れた方法を見出し、それらを創薬研究支援材料として利用する研究を行っている。また、小腸-肝臓2臓器連結デバイスなど、生体模倣モデル(MPSあるいはOrgans-on-a-Chip)の開発と有用性の解明も行っている。さらに、ヒトiPS細胞由来細胞を用いた腸管や血管の再生、あるいは、抗HBV薬の開発など様々な研究を行っている。

ヒトiPS細胞を用いた創薬支援モデル系構築と再生医療研究
  1. 肝細胞、腸管上皮細胞及び血管内皮前駆細胞への分化誘導法の開発と創薬研究(薬物動態試験、毒性試験、薬効薬理試験等)への応用
  2. 腸管三次元組織構造体(腸管オルガノイド)の作製法の開発と創薬研究への応用
  3. 脳毛細血管内皮細胞への分化誘導法の開発と血液脳関門評価系モデルの構築
  4. ヒトiPS細胞由来細胞を用いた臓器・組織(腸管、血管等)の再生に関する研究
  5. ヒトiPS細胞由来細胞を用いた分子標的薬の血小板減少症の発症機序に関する研究

ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、細胞増殖性に富み、生体を構成する様々な細胞に分化可能な細胞である。一般的には再生医療への利用が知られているが、生体から得ることが困難な細胞や組織を作ることができれば、医薬品開発における創薬研究にとって極めて有用な創薬研究支援材料となる。また、患者から樹立された疾患iPS細胞は疾患の原因解明や病態モデルの構築には非常に有用であり、世界的にその利用が大いに期待されている。当研究室では、ヒトiPS細胞から創薬研究に有用である肝細胞、腸管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、脳毛細血管内皮細胞、血液細胞等への分化誘導法を開発し、創薬研究等に利用できるモデル系を構築する研究を行っている。また、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患(IBD)患者の腸管の再生に利用できないか実験動物を用いたモデル研究を行っている。

Microphysiological System(MPS:生体模倣システム)の開発による生体モデルの構築
マイクロ流体デバイス技術と細胞培養技術の進歩により、体内の微小環境を模倣することで、臓器レベルの細胞機能の再現を目指すmicrophysiological system(MPS)技術が注目されるようになってきた。複数の臓器・組織を連結したデバイスはOrgans-on-a-chipあるいはBody-on-a-chipとも呼ばれ、創薬研究における新たな細胞アッセイのツールとして期待されている。当研究室では、経口薬のバイオアベイラビリティや初回通過効果あるいは臓器間相互作用の予測への利用を目的とした小腸-肝臓2臓器連結デバイスの開発を行っている。
新規抗ヒトB型肝炎ウイルス薬の開発とその機序の解明に関する研究
現在用いられている抗ヒトB型肝炎ウイルス薬の標準薬は、核酸医薬の逆転写酵素阻害薬である。当研究室ではこれまで報告されていない全く新しい機序による抗HBV作用を持つ化合物を見出した。現在、新薬開発を目指し、化合物の構造最適化を行っている。

鈴木 匡 教授 Tadashi Suzuki

地域医療の中で薬剤師、薬局が貢献するために必要な業務の開発とその効果検証を行っている。薬局で許可された検体測定室による自己採血測定を活用した服薬指導、在宅支援時の薬局薬剤師業務のICT化、ドラッグストアPOSデータを用いた情報分析を研究テーマとし、そこで得られた成果から新しい薬剤師教育の手法を開発している。

薬局検体測定室における薬剤師指導効果の検証
薬局で許可されている「検体測定室」では自己採血による血液検査が可能です。薬局で継続して血糖値、HbA1c、血中脂質などを測定し、その結果から生活習慣病の予防を積極的に薬剤師が行うことによる健康生活への効果を検証しています。薬局が積極的に地域医療に貢献する機会になるのではないかと考えています。
在宅支援薬局における情報共有システムの開発とその効果検証
富士通(株)と協力して、在宅支援を行う薬局の情報発信、共有のICT化を進め、効果的な在宅支援業務を進めるために必要なシステム創りとその効果を検証しています。多職種連携が地域包括ケアシステムでは非常に重要ですが、薬局薬剤師はこれからそのシステムを支える有望な医療人材であると考えています。
患者アドヒアランスの要因分析と、効果的な服薬指導方法の開発
(株)スズケンの協力得て、薬剤師が効果的な服薬指導を行うための要因分析を実際の薬局店頭での調査を基に行っています。そこから得られたデータを薬局薬剤師の皆さんと協議して、新しい薬局薬剤師の服薬指導の方法を開発し、その効果も検証しています。
ドラッグストアのPOSデータを用いた地域住民の健康動向、医療動向の分析
大手ドラッグストアチェーンの協力を得て、ドラッグストアの購買記録であるPOSデータから、その地域の一般用医薬品の消費状況、購買行動などを分析し、病院にかかる前のセルフメディケーションの状況や、安全で適切な医薬品の使用を行っているか等の解析が可能かの実証研究を行っています。まだ全く研究素材として活用されていないBIGデータですが、地域の健康状態を分析できる有益な資源ではないかと考えています。
薬剤師レベルアップのために必要な新しい研修方法の開発と実施
上記の研究を通して得られた成果を基に、かかりつけ薬剤師、かかりつけ薬局、専門薬剤師など薬剤師に求められている新たな業務、そしてそのレベルアップを実現するため、東邦薬品(株)と連携して新しい薬剤師研修を開発し実施しています。

岩尾 岳洋 教授 Takahiro Iwao

ヒトiPS細胞から作製した小腸上皮細胞および腸管オルガノイドから医薬品の薬物動態予測系や消化管毒性評価系、消化管疾患モデルを構築することを目指し研究を行っている。

ヒトiPS細胞由来小腸細胞の創薬研究への応用
小腸には種々の薬物代謝酵素や薬物トランスポーターが存在しており、これらは医薬品の効果や副作用の発現に大きな影響を及ぼしている。そこで、実験動物やさまざまなin vitro系を用いてヒトにおける薬物の体内動態特性の予測が行われているが、これらの評価系にはさまざまな問題がある。そこで、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から薬物動態の評価が可能な小腸上皮細胞を作製するための研究を行っている。また、小腸上皮細胞に加え、腸管オルガノイドの作製研究も行っている。当研究室ではヒトiPS細胞から小腸上皮細胞、腸管オルガノイドへの分化誘導法を確立している。この方法で作製した小腸上皮細胞細胞や腸管オルガノイドは、医薬品の吸収や代謝の予測、毒性評価、消化管疾患モデルなど創薬研究において幅広い利用が期待できることから、現在その構築に向けた開発研究を進めている。

ヒトiPS細胞由来小腸細胞の創薬研究への応用

堀 英生 講師 Eisei Hori

ヒトiPS細胞の血管内皮細胞への分化と血管障害モデルの開発
糖尿病では、高血糖状態が持続することによって血管内皮が障害され細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)や大血管症(冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)などの合併症を引き起こすと考えられている。また、この血管内皮障害には、血管における活性酸素種(ROS)の過剰産生が深くかかわっていることが知られている。現在、実験動物や初代培養細胞を用いて血管におけるROSの産生機序について検討が行われているが、種差の問題など種々の問題が存在する。そこでこれらの問題を解決するためiPS細胞からROS産生増加機序の検討が可能な血管内皮細胞を作製する研究を行っている。さらに、生体模倣システムを用いて血管構造を再現し、糖尿病が引き起こす血管障害モデル構築に向けた取り組みも行っている。
保険薬局薬剤師による定期的な患者指導と病院への情報提供が
心不全管理にもたらす効果の検証
病院薬剤師と薬局薬剤師が密に連携し、患者情報を共有することや薬局薬剤師が定期的に患者の状態を把握し、適切な指導を行うことによって慢性心不全の悪化が防げるがどうかの検証を行っている。

坡下 真大 講師 Tadahiro Hashita

薬物動態評価系に応用可能なヒトiPS細胞由来血液脳関門モデルの構築や分子標的薬による血小板減少の作用機序解明などに取り組んでいる。

iPS細胞由来血液脳関門モデルの構築
血液脳関門(BBB)は脳毛細血管内皮細胞(BMEC)とその周囲を覆うペリサイト(BPC)、さらにその周りを取り巻くアストロサイトから構成されている。医薬品や生体内成分は、このBBBによって血液側から脳実質側への脳内移行を制御されている。これまで創薬研究においてげっ歯類やヒトの初代培養細胞や不死化細胞がBBBモデルの構成細胞として用いられてきたが、非増殖性や希少性、種差といった問題を含んでいた。これに対して、近年、iPS細胞由来BBB細胞が生体に匹敵する機能を発揮しうることが報告された。しかし、従来の分化誘導法ではトランスポーター機能などが低く、また均質な機能を持った細胞を安定供給できないといった問題がある。
当研究室ではiPS細胞から血管内皮前駆細胞を簡便な方法で作製することに成功しており、この技術を用いてiPS細胞由来血管内皮前駆細胞からBMECを作製することで均質な機能を持った細胞の安定供給に取り組んでいる。また、BMECへの分化誘導時に様々な化合物を添加し、トランスポーター機能などを促進させる化合物のスクリーニングにも取り組んでいる。
分子標的薬による血小板減少症の作用機序の解明
分子標的薬の中には重篤な副作用として、血小板減少症を引き起こす種類がある。実際に、臨床現場において非常に重篤な血小板減少症を目の当たりにし、血中濃度測定等様々な解析を行ってきたが、指標となるマーカーを見つけることができなかった。そこで、分子標的薬による血小板減少症の作用機序を解明することで、血小板減少症に対する治療法の開発や指標マーカーの探索へと応用できることを目指して研究を行っている。